実務者のための知財法務

日々の業務で得た知見をもとに、知財や契約に関する内容を中心とした記事を、備忘録としてまとめています。
あくまで一知財部員の主観も含まれた記事として、参考程度に見て頂けると有り難いです。

ソフトウェア特許における各種クレームの使い分け

ソフトウェア関連発明を特許出願する際、どの種類のクレームを書くかは、その後の権利行使や収益化に直結する重要な論点となる。 とりわけ「システムクレーム」「プログラムクレーム」「方法クレーム」は、同一の発明内容であっても、権利の及ぶ範囲や侵害主張のしやすさ、実施料算定の考え方に大きな違いが生じる。 本記事では、ソフトウェア特許において典型的に用いられるこれら3種類のクレームについて、それぞれの特徴と利点・留意点を整理する。 システムクレーム システムクレーム(装置クレーム)は、ソフトウェアを含む装置全体を特定するクレームであり、完成品としての装置に対して侵害主張が可能となる。 最大の利点は、侵害対象を「装置全体」として捉えられる点にある。 プログラムクレームと比較すると、対象製品における特許発明の占める部分、いわゆるパテンテッドポーションを大きく評価しやすく、その結果、ライセンス料や損害賠償額を高く主張できる余地が生じる。 また、プログラムがハードウェアに実装されている場合であっても、システムクレームであれば問題なくカバーできる。 さらに、プログラム搭載装置の「使用者」に対して権利行使を行いたい場合にも、システムクレームは有効な選択肢となる。 このように、製品ビジネスを前提とする場合や、装置メーカー・ユーザー双方への権利行使を視野に入れる場合には、システムクレームは非常に強力な武器となる。 プログラムクレーム プログラムクレームは、コンピュータプログラムそれ自体を発明の対象として特定するクレームである。 このクレームの強みは、カバー範囲の広さにある。 CDやDVDなどの記録媒体による配布、ソフトウェアのダウンロード、サーバーからの配信、さらにはスタンドアローン型のソフトウェアまで、様々な流通形態を一括して捉えることができる。 原則として、プログラムクレームがあれば、記録媒体クレームを別途設ける必要はないと考えられる。 ただし、国ごとの制度差には注意が必要である。 例えば米国では、いわゆる「プログラムクレーム」は認められておらず、代替として記録媒体クレーム(computer-readable medium claim)に置き換える必要がある。 その際、単に記録媒体という記載だけだと一時的な伝搬信号それ自体(transitory propagating signals per se)であると解釈され、米国特許法第101条の規定により拒絶される可能性があるため、クレームでは「非一時的な有形の記録媒体(non-transitory tangible medium)」と規定する必要がある。 また、欧州特許出願では、原則として1つのカテゴリー(物、方法、使用)について1つの独立クレームしか認められない。 ここで、物のカテゴリーには装置、システム、プログラムが含まれるので、プログラムの独立クレームを規定した場合は装置クレームやシステムクレームの独立クレームを規定することができない。 欧州の審査ガイドラインにはコンピュータプログラムそれ自体は特許可能な発明から除外されるが、更なる技術的効果が得られるコンピュータプログラムは特許可能な発明であると規定されている。 つまり、プログラムのクレームについては特許可能な発明から除外される可能性もあるということなので、安全を取るなら装置クレームと方法クレームの2つの独立クレームを選択するのが良い。 なお、中国では従来、プログラムクレームは認められていなかったが、改正された「専利審査指南」が2024年1月20日から施行され、コンピュータプログラム製品を対象とする請求項が認められるようになった。 方法クレーム 方法クレームは、発明の「実行行為」そのものを特定するクレームである。複数のデバイスにまたがって処理が行われる場合であっても、一連の方法としてクレームできる点は特徴的である。 一方で、方法クレームによる権利行使には難しさも多い。 ソフトウェア関連発明では、実施行為が個人的使用に留まるケースが少なくない。 また、実施者が多数存在する場合、それぞれが「業として」実施していることを立証する必要があり、実務上の負担は大きい。 その割に、侵害に対する対価として得られる収入は限定的になりがちである。 そして、方法でしかカバーできない発明は殆ど存在しないと考えられる。 このような事情から、一般論としてはクレーム作成の優先度は低く位置づけられることが多い。 もっとも、例外もある。 サービス事業者による発明の実施が明確に想定される場合には、サービスに用いられるサーバー装置をクレームするよりも、そのサービス内容に対応する方法クレームの方が、サービス収益を基礎として実施料を算定しやすい場合がある。 このようなケースでは、戦略的に方法クレームを用意しておく意義は大きい。 おわりに ソフトウェア特許におけるクレーム設計は、単なる権利取得の問題に留まらず、その後のビジネスモデルや権利行使戦略と密接に結びついている。 システムクレーム、プログラムクレーム、方法クレームにはそれぞれ明確な役割と強みがあり、どれか一つが常に正解というわけではない。 想定される実施形態、侵害主体、収益源を踏まえた上で、複数のクレームタイプを適切に組み合わせることが、ソフトウェア特許の価値を最大化する鍵となる。 一般的には、システムクレーム≒プログラムクレーム>方法クレームの優先度となると考えられるが、プログラムがインストールされた装置を販売する可能性が低ければ、システムクレームの優先度は多少下がるかと思われる。

技術関連の契約と印紙税の基本整理

近年は電子署名(電子契約)が普及しており、収入印紙が原則不要となることが多いものの、紙での締結を行う場合は収入税の要否をしっかり判断しておく必要がある。 知財部員であっても、技術開発契約や知財関連契約を扱う場面では同様である。 印紙税は、印紙税法で定められた「課税文書」に該当するかどうかによって課税関係が決まるため、契約の名称ではなく、その内容が重要となる。 以下では、技術・知財分野で問題となりやすい課税文書の類型と実務上の留意点を整理する。 印紙税の課税対象となる契約書 課税対象となる契約書は、以下のリストの通りである。 文書の種類 文書の内容 第1号文書 不動産売買契約書、金銭消費貸借契約書、無体財産権の譲渡に関する契約書など 第2号文書 請負契約書 第5号文書 合併契約書、吸収分割契約書、新設分割契約書など 第7号文書 取引基本契約書、業務委託契約書など(契約期間が3か月以内で、かつ更新に関する定めがないものは除外) 第12号文書 信託契約書 第13号文書 保証契約書 第14号文書 金銭又は有価証券の寄託契約書 第15号文書 債権譲渡契約書又は債務引受契約書 技術開発や知財関連の契約では、特に以下の文書が課税対象となる可能性が高い。 第1号文書:特許権譲渡契約書、著作権譲渡契約書など 第2号文書:技術開発を内容とする請負契約書 第7号文書:請負に関する取引基本契約書、包括的な業務委託契約書 なお、発明に関する「特許を受ける権利(出願権)」の譲渡に関する契約書の場合は、特許権そのものの譲渡を約するものではないので印紙税は不要である。 更に、ライセンス契約書も特許権や商標権などの「無体財産権の譲渡」ではないため、こちらも印紙税は不要である。 ちなみに、請負契約であっても、単発の契約として締結される場合は第2号文書となる一方、継続的な取引を予定する基本契約の形をとる場合には、第7号文書に該当することがある。 また、契約書の中に特許権等の譲渡に関する規定が含まれている場合、契約全体として第1号文書に該当するかどうかを慎重に検討する必要がある。 契約書の保管と印紙の負担 契約書を複数通作成する場合、各通がそれぞれ課税文書となる。 通常、お互いが保管する契約書に貼付する印紙は、それぞれが手配することとなる。 一方、単なる写しには印紙税は不要である。 電子契約を締結した場合に、その内容をプリントアウトしたものについても、印紙税は課されない。 変更契約書と印紙税 既存の契約について修正覚書を作成する場合、元の契約書で印紙税を貼っていればOK、というわけではなく、変更内容に「重要な事項」が含まれていれば、新たに印紙税が課される。 請負契約書における重要な事項としては、印紙税法基本通達別表2において、概ね次の事項が挙げられている。 これらの内容が含まれる場合は、修正覚書にも収入印紙を貼り付ける必要がある点には注意したい。 運送又は請負の内容(方法を含む) 運送又は請負の期日又は期限 契約金額 取扱数量 単価 契約金額の支払方法又は支払期日 割戻金等の計算方法又は支払方法 契約期間 契約に付される停止条件又は解除条件 債務不履行の場合の損害賠償の方法 技術開発契約では、開発内容や対価、契約期間の変更が頻繁に行われることが多いため、修正覚書の印紙要否を都度確認することが重要となる。 おわりに 技術関連契約や知財契約では、契約類型が複合的になりやすく、印紙税の判断が難しい場面が少なくない。 契約の実質的内容を踏まえ、どの号の課税文書に該当するのかを整理することが、実務上のリスク低減につながる。

January 16, 2026

契約締結時の署名者の選び方など

個人が契約を締結する場合、原則として本人が署名すれば足りる。 誰が契約当事者であり、誰の意思で合意したのかが明確であるため、この点で悩むことはあまりない。 しかし、契約の当事者が法人となると話は少し変わってくる。 法人は自然人ではない以上、自ら署名することはできず、必ず「誰か」が法人を代表して署名を行うことになる。 では、その「誰か」として署名するのは、常に社長でなければならないのだろうか。 部長や事業責任者が署名している契約書を見かけることも多いが、それは法的に問題ないのか?という点について考えてみたい。 署名者は社長以外でも良い 社長(代表取締役)には法により会社を代表する権限が与えられているため(会社法第349条第4項)、社長が署名をするのが一般的である。 しかし、法人契約だからといって、必ずしも社長が署名しなければならないわけではない。 部長や事業責任者など、対象となる契約について契約締結権限を有しているのであれば、その者が署名者となること自体に問題はない(会社法第14条第1項)。 極端な話、平社員でも契約締結権限さえあれば署名者となり得る。 重要なのは肩書きよりも、契約締結権限があるかどうかである。 契約締結権限の確認方法 「平社員でも契約締結権限があればOK」ではあるのだが、あくまでこれは社内情報となることから、契約の相手方からは契約締結権限の有無を把握することができない。 そのため、契約締結権限があることを相手方に示しておくことが望ましい。 具体的には、 本来の権限を有する本人から、署名者が代理である旨を明示したメールを送ってもらう 委任状を提出する 契約締結権限を定めた社内規程を提示する(全体を提示できない場合は、一部黒塗りにして出すこともあり得る) といった方法が考えられる。 署名者は複数人も可能 契約内容によっては、同一の法人から複数名を署名者として指定することも可能である。 例えば、代表者と担当部門責任者の連名とすることで、社内的な意思決定がなされていることをより明確にできる場合もある。 押印は必須? 契約は、押印が無い(署名のみ)場合でも成立し得る。 しかし実務上は、契約を締結する意思があったこと、また契約内容を確認・了承したことを明確にするための手段として、署名に加えて押印が用いられるのが通常である。 形式そのものよりも、誰がどのような権限に基づいて合意したのかを意識して契約書を作成・確認することが重要になる。 契約締結までのやり取りは保存するべき 契約書締結までの交渉については、メール等のやりとりを通じて行われることも多い。 後日、契約書のみならず、こういったやり取りも契約の内容に関して疑義が生じたり紛争が生じたときの参考資料となり得るため、これらはPDF等で保存しておくことが望ましい。 特に、Emailは容量の関係から数年以内に内容を削除する設定としていることが多いため、先方との重要な契約関連の交渉についてはきちんと保存することがベストとなる。

January 10, 2026

契約書に用いられる押印の種類とその意味

契約を電子署名でなく紙で締結する際には、署名や記名押印のほかにも、いくつか種類の押印が用いられる。 それぞれの押印には役割があり、意味を理解せずに形式的に押していると、後から思わぬトラブルにつながることもあるので注意しておきたい。 契印 契印は、一通の文書としての連続性を担保するために押される印である。 複数ページからなる契約書において、ページとページの間にまたがるように押印することで、途中でページが差し替えられたり、抜き取られたりすることを防ぐ趣旨がある。 ページ数が多い場合には、全てのページ間に契印を押す代わりに、ホチキスと製本テープを使って袋綴じにしつつ表紙や裏表紙の綴じ部分に押印すると楽である。 割印 割印は、当事者がそれぞれ保管する複数の契約書が、同一内容であることを担保するための押印である。 通常は、2通の契約書を少しずらして重ね、その境目にまたがるように押印する。 そして、それぞれの当事者が1部ずつ保管する。 これにより、後から一方の契約書だけが書き換えられることを防ぎ、「双方が同じ内容の契約書を保有している」ことを証明しやすくなる。 訂正印 訂正印は、契約書の記載内容を訂正した箇所を特定するために押される印である。 誤字脱字や数字の誤りなどを修正する際、二重線を引き、その上に正しい文字を記入した上で、訂正箇所の近くに押印するのが一般的である。 訂正印がないまま修正がされていると、後から「本当に合意された修正なのか」が争いになる可能性があるため、訂正が生じた場合には適切に対応する必要がある。 捨印 捨印は、将来の訂正について、あらかじめ相手方に包括的に委ねる趣旨で押される印である。 訂正箇所を特定せず、契約書の余白などに押印されるのが通常となる。 捨印があると、軽微な修正について再署名・再押印を省略できるため、手続の手間がかからないというメリットがある。 このため、銀行に提出する書面など、実務の様々な場面で広く用いられている。 ここで、捨印を押した者の意図に反して際限なく訂正されてしまうのか?という点が懸念として考えられる。 この点だが、捨印の効力について、最高裁判所は昭和53年10月6日判決で「いわゆる捨印が押捺されていても、捨印がある限り債権者においていかなる条項をも記入できるというものではなく、(中略)当事者間に合意が成立したとみることはできない」としている。 この点を踏まえると、捨印によってあらゆる内容が訂正可能になるわけではなく、当事者間で合意した基本的な合意の趣旨は変えずに、誤字・脱字といった軽微かつ明白な箇所を訂正することができるに留まるものとみるのが自然かと思われる。 それでも、捨印は相手方に内容を修正されてしまうリスクを内包している点は認識しておくべきであり、特に契約条件の重要部分に影響し得る書面では、捨印のリスクを十分理解した上で対応することが重要になる。

January 8, 2026

欧州での商標登録なら、EUTM(欧州連合商標)がお得

EUで商標登録出願を行うには、直接出願かマドプロ経由での出願が必要となるところ、各国に対して個別に出願するだけでなく、EUTM制度(欧州連合商標)による出願を行うことができる。 EUTM制度とは EUTM制度とは、EU全域に効力が及ぶ単一の商標登録をすることができる制度である。 かつては欧州共同体商標(CTM)と呼ばれていたが、2016年3月に改称されている。 EUTMのメリット EU加盟27か国のすべてで個別に権利化し、更新する場合に比べると、大きな経済的メリットが得られる。 もし国毎に登録しても、1ヵ国あたりEUTMの半額程度の費用は必要なケースがあるので、EUTMはかなり費用を浮かせられることとなる。 また、更新手続きも1度で済むのが嬉しい。 べルギー、オランダ、ルクセンブルグについては、個々の国へ直接出願することはできず、ベネルクス商標登録出願という手続きを踏む必要があるが、EUTMであればこの3国についてもカバーされる。 さらに、5年間商標を不使用の場合は取り消される可能性があるところ、EUTMの場合はEU加盟27か国のどこか1国で商標を使用していれば、不使用取消を免れられる。 なお要件を満たせば、マドプロを利用してEUTM出願をすることも可能である。 EUTMのデメリット EUTMは一体不可分の権利なので、EU加盟国の一部のみを選択して出願することはできない。 したがって、1国で拒絶理由があった場合は全体で拒絶されるし、異議申立を受ける可能性も高まる点は注意である。 例えば、商標が加盟国のどこかの言語でその商品の一般名称だった場合、それが他の加盟国では知られていない商標でも、拒絶されることとなる。 また、これは正確にはデメリットではないが、EU非加盟国、例えば英国について権利化したい場合は別途個別に出願する必要が生じる点は注意が必要である。 EUTMだとEU加盟国でも一部の地域に権利を及ばすことはできない デンマーク王国はデンマーク本国、フェロー諸島、そしてグリーンランドの3つの地域で構成される。 ここで注意したいのは、デンマークはEU加盟国ではあるにもかかわらず、EUTMがフェロー諸島とグリーンランドには適用されない点である。 もしこれらの地域にも商標権の保護を及ばせたいのであれば、デンマーク王国全体を統括するデンマーク特許商標庁を通じた手続きが必要となる。 イタリアでも同様の話があり、EUTMはサンマリノ共和国やバチカン市国では有効ではないが、イタリアとの特別な条約により、イタリア国内商標庁に商標登録出願をすればサンマリノ共和国やバチカン市国でも保護される。 したがって、これらの地域にまで商標権の保護を及ばせるのであれば、デンマークやイタリアへ直接出願することが求められる。

クレームで「○○の数」を英訳するなら「a number of ○○」か、「the number of ○○」か

細かい話になるかもしれないが、特許のクレームを英語に翻訳するとき、「○○の数」という表現をどう英語に翻訳すべきだろうか? 選択肢としては、 a number of ○○ the number of ○○ が挙げられる。 「a number of」は「複数の」「多数の」と解釈されうるため「the number of」とすべき、という意見もあれば、初出で「the number of」と用いるのは適切でないため、「a number of」とすべき、という意見もある。 本来の英語としては、「複数の」ではなく「○○の数」であることを明確化するという観点では、「the number of」と記載するのが正しいようにも思われる。 しかし、米国の審査官によっては「初出の単語にtheという定冠詞を設けるのは不適切。初回はaを使いなさい」と反射的にObjectionを出すことも多い印象である。 そんな審査官に対して「いや、これは数を表すのでtheとすべきです」と意見することも可能ではある。 しかし、現実としては審査官が納得しない可能性も大いにあり得る。 また、明細書を読めば「a number of ○○」が「○○の数」を意味することが明確となっていれば、別に問題にはならないと考えられる。 実際、USPTOの審査官が審査手続を進めるための審査基準(MPEP 2111)でも、クレームの文言そのものだけでなく、明細書全体(詳細な説明、図面など)を参照して「当業者(person having ordinary skill in the art)」が理解するであろう最も広く合理的な意味で解釈されるとしている。 これらの事情を考慮すると、個人的には、初回は「a number of」を、それ以降は「the number of」と表現すれば問題ないと思う。 因みに、「a number of」を「複数の(2つ以上を全て包含する形)」という意味で用いることもあるだろうが、「多数の」と解釈されうる(権利範囲が狭く解釈される)リスクを考慮すると、実務上は「a plurality of」と表現することが多いと考えられる。

発注前の作業依頼や取引額の減額は常に問題?

2026年1月より、下請法(下請代金支払遅延等防止法)が取適法(製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律)という法律に変更される。 気になったので、改めてどんな内容の法律で、委託業務での注意点をメモにしてみた。 適用対象取引 対象となる取引は、取引の内容と、委託者/受託者の資本金基準および従業員基準によって決定される。 なお、取適法では新たに従業員基準が設けられるとともに、適用対象となる取引の内容に「特定運送委託(製造等の目的物の引渡しに必要な運送の委託)」が追加されたことで、規制及び保護の対象が拡充されている。 具体的には、以下の通りである。 「製造委託」「修理委託」「特定運送委託」「情報成果物作成委託」「役務提供委託(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理に限る)」 委託事業者 中小受託事業者 資本金3億円超 資本金3億円以下 資本金1千万円~3億円 資本金1千万円以下 従業員300人超 従業員300人以下 「情報成果物作成委託」「役務提供委託」(プログラム作成、運送、物品の倉庫における保管、情報処理を除く) 委託事業者 中小受託事業者 資本金5千万円超 資本金5千万円以下 資本金1千万円~5千万円 資本金1千万円以下 従業員100人超 従業員100人以下 義務・禁止事項 委託事業者には、4つの義務と11の禁止事項が課されている。 4つの義務 発注書面の交付(発注内容を書面または電子メール等の電気的方法により明示) 書類の作成・保存義務(取引記録を電磁的記録等として2年間保存する) 支払期日を定める義務(成果物の受領日から60日以内に支払期日を定める) 遅延利息の支払義務(遅延日数に応じ、年率14.6%の利息を支払う) 11の禁止事項 受領拒否 支払遅延(手形等での支払い手段もNG) 減額 返品 買いたたき 購入・利用強制 報復措置 有償支給原材料等の対価の早期決済 不当な給付内容の変更、やり直し 協議に応じない一方的な代金決定(※) ※取適法で新たに追加 発注前の作業依頼は違法? ところで、委託業務の内容に齟齬が生じないよう、委託予定の企業にサンプルケースを提示し、そのケースを処理してもらった上で生じたサンプル成果物を確認する、ということがあり得る。 また、その場合は具体的な作業内容を踏まえて委託予定の企業に見積書を作成してもらうこととなるであろう。 このような発注前の作業は、発注書面の交付義務に違反することとなるだろうか? こちらについては、サンプルケースの処理が委託業務内容の把握や見積書の作成に必要な行為であれば、問題ない。 ただし、その内容が実質的に先行して委託業務を行なっているとみなされないように注意する必要がある。 特に、その作業から生じたサンプル成果物を、本当の成果物の一部として委託元が取り扱わないようにするよう気を付ける必要がある。 取引内容の見直しによる減額は違法? 発注後、社内事情により急遽成果物が不要となったり、計画が大幅に変更となることで、委託していた業務を中止することがあるかと思う。 このとき、残りの業務を中止する代わりに、支払い費用を減額するのは取適法違反となるだろうか? 結論から言うと、不当な減額とならないよう委託先と合意形成がなされていれば問題ない(メール等で合意形成した場合であっても、ちゃんと証拠資料として保存しておきたい)。 例えば、委託先が業務1→業務2という順番で遂行する予定だったとき、業務1まで完了した段階で委託元が中止を求めたとする。 その場合は、委託先が業務1に要した工数等を踏まえて算定した対価を支払えば良い。 見積書でそれぞれの内訳が記載されていれば、その金額を支払うことが考えられる。 もし、委託元が業務2まで遂行することを見込んで業務1の対価を相場より安く見積もっていた場合は、委託先側で業務2が中止となった事情を踏まえて、もう少し高い対価を請求してもらうことがベターかと思われる。

欧州AI法により禁止されるAI利用のルール

自社のソフトウェアをユーザーに販売・ライセンスする上で利用規約を定める際、不正コピー、リバースエンジニアリング、等といった事項を禁止行為とすることが多いと思う。 ここで、提供するソフトウェアがAIモデルの場合は、更に考慮すべき事項として、欧州AI法(EU Artificial Intelligence Act)が挙げられる。 これは世界初となるAIの開発や運用を包括的に規制する法律(2024年5月21日に成立し、8月1日に発効)であり、AIをリスクの程度で分類し、その程度に応じた規制を適用するものとなる。 具体的には、AIシステムは次の4段階に分類され、最上位の「容認できないリスク」に該当するAIシステムは禁止される。 分類 詳細 規制内容 容認できないリスク(Unacceptable risk) 人々の安全、生活、基本的人権に対する明白な脅威となるもの 禁止 高リスク(High risk) 人々の健康、安全、基本的人権に重大なリスクをもたらす可能性のあるもの 厳しい手続きの義務付け 限定的リスク(Limited risk) AI利用における透明性が欠如するもの 生成AIによるコンテンツであることを明示 最小のリスク(Minimal risk) リスクが最小限またはリスクなしとみなされる 自由に利用可能 特に「容認できないリスク」には倫理的なものが多分に含まれるため、欧州では勿論のこと、欧州以外の国に販売する場合であっても、欧州AI法で定める容認できないリスクとなる使い方を禁止するよう利用規約に定めておくことがポイントとなる。 欧州AI法における「容認できないリスク」は原則禁止 上述の通り、欧州では「容認できないリスク」に該当するAIシステムは禁止されている。 具体的な禁止行為は以下の通りとなるが、以降で各項目の詳細に言及していきたい。 禁止行為 内容 有害な操作と欺瞞 視覚・聴覚・その他の刺激を利用して、本人が気づかないうちに判断を歪め、重大な不利益を与える使い方 脆弱層への悪用 子供、高齢者、障害のある人、経済的弱者などの脆弱性につけ込み、行動や判断を誘導して害を与える使い方 社会的信用スコアリング 個人の行動や推測された性格などから「スコア」を作り、公共サービス・待遇・権利に不利益を与えるような運用 犯罪予測のためのリスク評価 住所、年齢、国籍、婚姻状況などの属性情報だけから「犯罪を起こしそう」と判断すること 顔認識データベースの無差別収集 インターネットや監視映像から、本人の同意なく人の顔を収集・学習・照合する行為 職場・教育現場での感情推定 従業員や学生の「感情」を読み取り、監視・評価・選抜に利用すること 生体情報によるセンシティブ属性の推定 顔・声・歩き方などから、人種、宗教、政治的意見、性的指向などを推測・分類すること 公共空間での「リアルタイム」遠隔生体認証 公共の場で、リアルタイムに個人を特定する 有害な操作と欺瞞(Article5(1)(a)) サブリミナル操作や、意図的に人を欺く・操作するAIを使って、人の判断力を損なわせ、本人が本来取らなかったであろう行動を取らせて重大な害を与える使い方は禁止される。 サブリミナル操作の具体的 視覚的サブリミナル:意識的には認識できないほど短時間に画像や文字を表示 聴覚的サブリミナル:他の音に紛れる、または非常に小さい音量でメッセージを流す 触覚的サブリミナル:人が気づかない程度の刺激で感情や行動を左右する 不可知刺激(視覚・聴覚):人間の感覚では全く検知できないレベルの刺激(極めて速い点滅や可聴範囲外の音)を用いる 例えば、広告で潜在的に購買行動を誘導し、経済的損失を与えるようなものは良くない、ということである。 禁止されない具体例 サブリミナル操作であっても、それがユーザーの利益に繋がる以下のような場合は例外的に認められる。 サブリミナル療法を使って、ユーザーをより健康的な生活様式へと導き、喫煙などの悪習慣を断つよう促す治療用チャットボット ユーザーの感情を推測し、気分に合わせた楽曲を自動推薦する一方、抑うつ的な楽曲への過度な接触を回避する音楽プラットフォーム サイバーセキュリティ脅威に関する教育を目的としてフィッシング攻撃を模倣するために用いられる、AIを活用した操作的・欺瞞的手法 脆弱層への悪用(Article5(1)(b)) 年齢、障害、社会的・経済的弱者などの脆弱性を利用して、その人や集団の行動を歪め、重大な害を及ぼす使い方は禁止される。 禁止される具体例 子供に対し、家具への登り、高い棚の探索、鋭利な物体の取り扱いなど、次第に危険度を増す課題を達成するよう促す対話型AI搭載玩具 高齢者の認知能力の低下を悪用し、欺瞞的な個別対応型オファーや詐欺を仕掛けるAI 精神障害を持つ人々に対し、高額な医療製品の購入を促したり、本人や他者に有害な行動を取るよう誘導する治療用チャットボット AI予測アルゴリズムを用いて、低所得地域に住み深刻な財政状況にある人々を標的にし、搾取的な金融商品の広告を配信する 社会的信用スコアリング(Article5(1)(c)) 個人の行動や推定された人格特性に基づいてスコア化し、そのスコアをもとに不当・不均衡な扱いをすることは禁止される。 ...

無償で商用利用可能な地図画像

Gopgleマップを社内資料に貼り付ける場合、基本的には帰属表示をすれば良いと紹介した。 社内の電子資料にGoogleマップを使うには 社内資料として、Googleマップの地図画像をPDF、PowerPointなどの電子資料に貼り付けたくなることがあるかもしれない。 しかし... しかし、商用利用の場合は、その利用形態によってはライセンス料を支払わなければならない。 気にせず無償で商用利用したいのであれば、より自由度の高い「OpenStreetMap」を利用することをお勧めする。 日本地図に限定しても問題なければ、「国土地理院」の地図画像を使うのも良い。 しかし、両方とも帰属表示が必要な点はGoogleマップと共通する。 OpenStreetMapの使い方 ボランティアが地図データを編集・更新する仕組みなので、地域によってデータの詳細度が異なる場合があるものの、商用利用可能な点はメリットである。 まずはOpenStreetMapの地図画像を商用利用するための方法を説明する。 帰属表示とリンク貼り付けすればOK 用いるデータや媒体や用途によって表示形態は異なるが、電子資料に地図画像を貼り付けるのであれば、以下2点を行えば商用利用も可能で、地図画像の複製、配布、送信、改変を自由に行うことができる(データを改変または利用する場合は、同じライセンス下でのみ配布可能)。 帰属表示 著作権とライセンスのページへのリンク貼り付け 詳細はLicence/Attribution Guidelinesに記載されているので、そちらを以下に要約する。 具体的な帰属表示/リンク貼り付けの方法 帰属表示は「OpenStreetMap」を入れる必要がある。 「© OpenStreetMap contributors」や 「© OpenStreetMap」という帰属表示でも問題ないが、読みやすい見た目(フォントサイズ、色など)にしておくことが求められる。 また、「OpenStreetMap」のテキストに「openstreetmap.org/copyright」へのリンクを設定する必要がある。 もし印刷物等のようにリンクを設定できない媒体であれば、URLを直接記述すれば良い。 OpenStreetMapに由来しない素材と区別するため、使用しているOpenStreetMapのコンテンツを説明するクレジット表記を自由に行うことができる。 例えば、OpenStreetMapデータを独自のデザインでレンダリングした場合は、「OpenStreetMapの地図データ」と表記することができる。 同じ文書に複数の静止画像が含まれている場合は、帰属表示は1つで足りる。 なお、以下の画像には帰属表示は不要である。 100個未満の地物を含む静止画像 10,000平方メートル未満の面積を含む静止画像 小さなサムネイル/アイコン データセット、AIモデルに関する規定も OpenStreetMapデータから大量に抽出された学習データセットは派生データベースとみなされ、公開する場合はODbLの条件に従って利用可能にする必要がある。 このような学習データセットを用いて学習されたモデルは、モデルを使用するユーザーが情報を期待できるドキュメント(モデルのコードベースのREADMEなど)や、モデルをダウンロードできるウェブページなど)に、その帰属を明記する必要がある。 このようなモデルを用いて行われた予測は、ODbLの対象外となる。 ただし、OpenStreetMapデータの大部分を抽出、複製、または再作成するために制作作品が使用される場合、それは派生データベースとみなされることには注意が必要である。 国土地理院のコンテンツの使い方 日本地図のみの利用で問題なければ、国土地理院のコンテンツを用いることが選択肢となる。 一般ユーザーには使いづらい部分があるかもしれないが、日本国内の詳細な地理情報が提供されている点がメリットである。 次に、国土地理院の地図画像を商用利用するための方法となる。 出典の記載をすればOK 出典を記載すれば利用可能であり、記載方法は「国土地理院コンテンツ利用規約」に以下の通り例示されている。 (出典記載例) 出典:国土地理院ウェブサイト (当該ページのURL) ※学術論文や図書等に引用する際は、学会誌等が定めたルールに適した方法で引用すること (コンテンツを編集・加工等して利用する場合の記載例) 地理院タイル (標高タイル(基盤地図情報数値標高モデル))を加工して作成 「○○データ」(国土地理院) (当該ページの URL)をもとに○○株式会社作成 第三者のコンテンツを含む場合は注意 コンテンツのうち第三者が権利を有しているもの、例えば地理院地図(タイルデータ含む)のうち他機関の情報であることが示されているものについては、権利侵害とならないよう、別途それらのライセンス条件や利用規約を遵守する必要がある。 例えば、別途クレジット表記をする等の表記等を行うなどの対応が求められる。

社内の電子資料にGoogleマップを使うには

社内資料として、Googleマップの地図画像をPDF、PowerPointなどの電子資料に貼り付けたくなることがあるかもしれない。 しかし、地図画像もGoogleの立派な著作物である(著作権法第10条1項6号)。 こう思うと資料への貼付けが躊躇われるが、あくまで電子資料が社内使用に留まるものであり、商用の広告として用いたり、多くに配布するものでなければ、帰属表示をはじめとする利用規約を守っておけば貼り付けは可能である。 遵守すべき利用規約 遵守すべき利用規約として「Google 利用規約」と​「Googleマップ追加利用規約」の2つがある。 Google 利用規約には、Googleアカウント利用時の年齢要件、サービスの不正利用の禁止等が規定されているが、この中で「サービス固有の追加規約」の遵守を求めており、Googleマップの場合は​「Googleマップ追加利用規約」がそれに当たる。 Googleマップ追加利用規約の概要 Googleマップ追加利用規約では、「適切な権利帰属を伴うコンテンツを、オンライン、動画形式、印刷形式で公開表示する」ことを許可している。 言い換えると、適切な権利帰属のないコンテンツの使用は認められないということである。 「適切な権利帰属」とは、要するに「ちゃんと帰属表示をしてね」ということで、その具体的な内容は「Googleマップ、Google Earth、ストリートビューの使用にあたっての許可に関するページ」に記載されている。 その中身は、以下の通りである。 帰属表示の内容 Googleマップでは、コンテンツの下部に、例えば「Map data ©2019 Google」などの著作権表示とともに帰属表示が記載される(正確な帰属表示のテキストは、地域やコンテンツの種類によって異なる) この帰属表示は、web embeds,、API、Google Earth Pro、Earth StudioといったGoogleのツールで地図画像を出力すると自動で表示されるようになっている。 これを、以下のルールに従って表示することが求められる。 遵守事項 帰属表示は地図画像の近くに表示すること スクリーンショットを使用する場合は、画像中の標準的な帰属表示をそのまま記載すること データや画像の一部がGoogle以外のプロバイダから提供されていれば、帰属表示のテキストに「Google」+「データプロバイダ(複数可)」を明記すること(例:「地図データ:Google、Maxar Technologies」) 禁止行為 帰属表示を地図画像から離れた場所(書籍の末尾、映画や番組のクレジット、ウェブサイトのフッターなど)に表示する行為 帰属表示を削除したり、隠したり、切り取る行為 Googleロゴをインラインで使用する行為(例: 「これらの地図は [Google ロゴ] から提供されています」という表示を入れる行為) Google以外のプロバイダのデータが含まれているのに、「Google」またはGoogleロゴのみを記載する行為 認められる行為 必要に応じて、帰属表示テキストのスタイルや配置をカスタマイズ可能(ただし、閲覧者が判読できるよう、テキストはコンテンツの近くに表示する必要あり) その他、禁止行為 帰属表示の他にも、Googleマップ追加利用規約では以下の行為を禁止している。 Googleマップを再配布・販売したり、そこから新しいサービスを作る行為 地図や画像などのコンテンツを勝手にコピーする行為(例外あり) 大量にダウンロードしたり、自動でデータを取る仕組みを作る行為 Googleマップの情報を使って、別の地図サービスやデータベースを作る行為 リアルタイムのナビや自動運転用に、他社のサービスと組み合わせて使う行為 用途によっては、更なる決まり事も 地図画像をどう使うか(印刷するのか、動画に使うのか、等)によって、次のように更なる遵守事項が課される。 地図画像を印刷する場合は、非営利目的または個人的な使用に限る 埋め込みコードでウェブサイトにGoogleマップを埋め込むだけならOK(Googleマップへのリンクを貼ることも可能) 映画やテレビ番組でGoogleマップを使用する場合(例:俳優がスマートフォンでGoogleマップを使用)は、事前承認が必要 オンライン動画広告やプロモーション目的(例:不動産会社が賃貸物件の空き状況を表示するなど)で使用する場合は、事前承認が必要 PDFやPowerPointといった電子資料に貼り付けるだけであれば、基本的には帰属表示を守っておけば良い。 まとめ 最もシンプルにGoogleマップの地図画像を社内の電子資料に使いたければ、Googleのツールで帰属表示付きの画像を出力し、何も加工せずに貼り付けるのが手っ取り早い。 しかし、商用利用含めてもっと制約なく使いたければ、OpenStreetMap(クレジット表記は必要)等の別のコンテンツを使うのが良い。 OpenStreetMapの詳細については、また別の記事で紹介したい。